細本和子
細本和子
プロフィール

1928年生まれ

職業:占い師

呪術師が住む村はフィクションか?小説が描く奇妙な世界

劇作家として人気を誇った故・中島らもが生み出した小説「ガダラの豚」にはあまりにもリアルな「呪術師が住む村」が登場します。
主人公は民俗学を研究する男で、その呪術師の村が舞台に物語が繰り広げられます。
村の中にはいくつかの部落があり、それぞれに呪術師が住んでいます。

何か部落同士で問題が起きると住民はその部落に住む呪術師の元へ行き、「あの部落のあいつを呪い殺してくれ」などと頼むのです。
呪術師は「〇〇をある場所に隠せ」などと指示して、呪術をかけた物を依頼主に渡し、依頼主はそれを指定された場所に隠して呪術が完了です。

呪術で成り立つ社会!?驚くべき呪術の村のリアリティ

話は呪術が完了したあと、呪いをかけられた人間が突然死んで終わり……というわけではありません。
それでは、人が死んだり不幸が起こったりと悪いことばかりになってしまいます。

狭い村での噂はすぐに広まります。呪いをかけられたという噂はすぐに本人の耳に入り、その人は自分の部落の呪術師に「呪いをかけられたらしい。呪いを解いてくれ」と相談に行きます。

すると「〇〇に〇〇が隠されているから、処分しろ。そうすれば助かる」などと助言するのです。
男が呪術師に言われたとおりにすると、確かに呪いに使われたものが呪術師のいう場所にあり、処分してホッと胸をなでおろします。死ぬということもありません。
そんなことを互いの部落でやりあっているのです。

これはどうやら、互いの村同士の呪術師がつながっており、それぞれの住民間のトラブルについて情報を共有し、落としどころを見つけて解決しているというカラクリがあります。
誰も人を殺さずに済むし、殺されることもなく済みます。

解決することとはわかっていても呪われるというのは気分の良いものではありません。
自分がよその部落の人間とトラブルを起こせば、呪い返されることも知っている住民たちは、なるべくよその部落の人間と争いをおこさないように気を付けて生活しています。
つまり、呪術師がそれぞれの部落の橋渡しとなり、また威嚇する兵器となり、社会のバランスをとっているわけです。

実際にあった!呪術師がいる世界のコミュニティ

ここまで話してきたことはあくまでもフィクションの小説の中の話です。
ただ、小説の最後には数多くの民俗学研究の学術書からの出典が書かれており、多くの文献を参考にその呪術の村が描写されていることがわかります。
インターネットで呪術師につてざっと調べただけでも、世界には呪術師がいるミュニティが存在することがわかります。
フィリピンのある島には黒魔術師が住むといわれており、地元だけでなく海外からも医者に見放された人が治療薬を求めてくるとか。
また南米のボリビアには、怪我や精神的な病気を治す医師・哲学者・呪術師として活躍する人物が存在するといわれています。

人は知らず知らず呪術に助けられている

日本にも「丑の刻参り」といって、丑三つ時(深夜2時ごろ)に、藁人形を木に五寸釘で打ち付けて人を呪うという呪術が言い伝えられています。
人を呪うという概念は古くから世界中にあったようです。

さらに日本には「人を呪わば穴二つ」ということわざもあります。
これは他人を呪い殺そうとすれば自分にもその報いが必ず帰ってくるため、墓穴が相手と、自分の2つ分必要になるということを意味し、人を呪うことに対する戒めにもなっています。

少し調べただけでも、呪術はただのオカルト趣味の作り話ではないことがわかります。
「呪い」という名の攻撃であり、「癒し」でもあり、また社会で争いが起きないための抑止力にもなっているのです。
普段呪術の存在など気にせず生活している人の方が多いと思いますが、私たちは知らないうちに呪術に助けられているのかもしれません。

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